Dr.しゅん の しゅんじゅわークリニック

ようこそ、しゅんじゅわークリニックへ。Dr.しゅんです。標榜科はゲス科で、たまにおさわりを中心とした心療内科、精神科の治療も行っております。ゲス具合が酷くて心身の健康が損なわれている方への暖かい援助をしていきたいと思っております。喉が痛い?そういうのはちょっとよく分からないですね。 twitterやってます。@Drshunshu

症例4 Peing 質問者Aさん ー不調になった恋人未満の人への関わりについてー

今回はPeing 質問者Aさんからの質問に答えてみたいと思います。

 

 

 

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えーと、そもそも適応障害とはどんなものなのでしょうか?

実は精神科疾患ではICDとDSMという国際的な診断基準が大きく二つありまして、一応診断といえばどちらかを使っています。今回はICDの方の適応障害を見てみましょう。

 

ざっくり言うと

抑うつ、不安、心配、現状への対処・計画・日課遂行の障害などの多彩な症状がストレスの多い出来事、あるいは生活の変化から1か月以内に発症し、症状の持続は6か月を超えない。実際の出来事・状況・あるいは生活上の危機なしには障害は起こらなかったという証拠が必要』

 

といったところですね。

 

ちょっと分かりにくいのでしゅん先生の定義でいきます。

適応障害は『うつっぽいけど抗うつ薬は飲まなくてもOK!環境を改善すれば元気になるよ!』状態です。 

抗うつ薬は脳の中をいい感じに調整してくれるものなので、それが効くということは脳の中にも異常が出てきているということです。それがいらないので、あくまで置かれている環境が良くないんですよ、ということ。

なので一番の治療は基本的には環境を改善することです。仕事が忙しすぎたら業務量を減らしてもらったり休んでもらったり、人間関係だったら先生は少し介入することもありますし、睡眠薬などを追加することもあります。

ただし症状としては抑うつ気分、不眠、不安など基本的にはうつと一緒なので、抗うつ薬を使うかの違い以外は、基本的に周囲はうつの人に準じた対応でよいです。

 

うつでは意欲が落ちて仕事など『しなければならないけどしんどいこと』ができなくなりますが、その先には『今まで楽しめていたこと』も楽しめなくなるアンヘドニアという症状も出てきます。

アンヘドニア改善→意欲改善となるのが一般的なので、まずは『今まで楽しめていたことを楽しいと思えること』が最初の目標ですね。

ただこの楽しいと思えることはあくまで本人目線でですので、いくら周囲が楽しませよう!と思って強引に飲み会に誘ってわいわいしても、本人がしたいことでなければ疲れるだけでマイナスです。なのでこの匙加減はけっこう難しい。

 

 

ある偉い先生が『精神科医”杖”である』と言っています。勝手に病院まで運んで治療してくれる”救急隊”ではないんですね。これは精神科医療スタッフに限らず家族や支援者全般にも言えますが、あくまで歩いていくのは患者さん本人なんです。

 

患者さんには登らないといけない山があって、我々支援者は歩くのを支えたり励ましたり正しい道を示すことはできるけど、歩くこと自体は代わってあげることはできない。

本人を置き去りにして周囲だけで治療を終わらせることはできないんです。

 

 

ここでAさんの対応は過度に干渉しすぎず、暖かく見守るような対応でとても良いのではないかと思います。

ただしなかなか改善しない本人をただ待つしかないのは支援者としても辛いものがあります。ましてや恋人未満の宙ぶらりんの状態でどこまで待てるか…

 

 

男性は一般的ににプライドが高く弱みを見せることが苦手な傾向があり、女性のように愚痴を吐いて共感してもらってスッキリする、というのがとても苦手です。

うつ自体は女性に多いですが自殺率は圧倒的に男性が多いです。

 

なのでこの本人さんもAさんにうまく弱いところを見せたくないから敢えて距離を取っている、自己防衛のような印象はあります。ただそれを指摘して、さあ弱みをさらしていいんだよ?と言われてすぐできるかというと…それも難しそうです。

 

するとすればオープンクエスチョン(『何かきついことがあったの?』など自由に返答できる質問)で聞くのではなくて、ある程度当たりをつけてクローズドクエスチョン(『上司の〇〇さんとうまくいってないんじゃない?』などYES・NOで答えられる質問)で話を切り出させ、話すことで何らかの本人の状態の改善を自覚させられれば、『Aさんに弱みをさらす→よくなる』と思ってもらえるかもしれませんが…男性のプライドを穏便に崩すのはなかなか簡単ではありません…。

 

 

とりあえず今までのAさんの対応はそれで十分支持的だと思います。あとは今後どうやっていくか。

 

どの道を選ばないといけないという正解はありません。大事なのは自分に必要な選択を、自分で考えて選び取るということです。

 

いたずらに時間が過ぎるリスクを負ってでも改善を願って待つもよし、できるところまで頑張ったら次の恋愛に進むもよし。

 

ここで気を付けるべきは、「たとえ支援から離れても自分を責める必要はない」ということです。

ここで離れてしまうのは弱った人を見捨てるみたいで良心が咎めるかもしれませんが、あくまで我々は杖です。この比喩が示すもう一つ重要なことは、「我々はできる範囲の支援しかできないし、しない」べきであるということです。誰であろうと、進まない本人を背負って代わりに歩いていくことはできません。我々精神科医もどこまで支援できるかという限界設定をしています。

恋人でもないのに自分の人生を犠牲にしてまで待ってくれているAさんがいないと維持できないならばそれは改善したとは言えませんし、ゴールではありません。

なのであくまでAさんは自分の人生を維持できる範囲で支えることが重要で、自分の心身の健康を維持できないレベルで支えるのは双方にとってよくないことです。

 

自分にとって最善の選択をしっかり考え、できる限界を決めた上で、無理のない支援をしていってもらえたら、と思います。