症例9 進路に悩む美女看護学生
大変遅くなりました…うまく入れなくなっておりまして…。
この質問者さんがすでに進路変更してないといいんですが…
PEINGからの質問です。
勝手に「美女」を追加しましたが、これは文面からにじみ出る美女感を先生が(勝手に)言語化したものです。性別も書いてないですが間違いなく美女です。鼻の下を伸ばさないように気を付けながら答えていきたいと思います(ハアハア)。
看護師という進路に向けて進み始めているみたいですが、周囲からの期待が大きくてしんどいけど期待されないのも嫌だという…思春期っぽい若さに溢れていていいですねえ。
ただこの方、そもそもあんまり看護師という進路納得してないですよね?笑
なんとなく誰かに勧められたか、自分で少しいいなと思って言ってみたら周囲がとても喜んでくれた…そんな感じじゃないかなと思いますがどうでしょう?
本当に自分で納得していたら周囲の声がどうとか気にならないはずなんですよ。
なので周囲の期待の強さがどうというよりは、自分で納得できていないということの方が問題なんですよね。
ただですね、たかだか18歳の社会にも出ていない子どものうちに、今後何十年と続けるかもしれない職業を決めなさいと言われても普通決められないですよ。
だってしたことないんだからどんな仕事かなんておぼろげなイメージ程度しか持てないし、そもそも社会にはどんな仕事があって、どんな勤務体系で休みはどれくらいあって、どれくらいの責任を持たされてどんなリスクがあって、年収はどれくらいで、そして実際年収はどれくらいあったらどの程度の生活ができるのか、なんて分かるわけないんですよ。
先生も精神科医になるつもりは研修医終わるギリギリまで全くなくて外科とか小児科とか考えてましたし、医学部受験をする時点ではDr.コトーに憧れて離島医療に携わりたいとか思ってましたからね。
精神科が実際どんな仕事かも研修では回ってみるまではっきりとは分かってませんでしたし、科ごと、病院ごとの給料がこんなに違うってのもかなり後になるまで知りませんでした。
医学部に限らずそういった進路を決めるために不可欠な情報が、かなり後になって初めて分かる、ってのは往々にしてあることなんですよね。
医師の場合は進路を決めるのは自分のタイミングです。嫌だと思ったら研修医終了後も専門科や病院を変えることは(面倒な場合もありますが)できなくはないので取り返しは可能ですが、学部の選択や一般企業に就職後にこれじゃなかった…となるのは悲しい話ですよね…。
なので進路に迷っている人へのアドバイスとしては二つ。
一つはそもそも後悔しないために『徹底的に調べなさい』。
まず自分がどういう生活をしたいのか。海外で働きたい、都会に住みたい、余暇を楽しみたい、趣味を活かしたい、育児や家庭中心にしたいなど、まずは希望の生活スタイルを探すことが最初です。
人生哲学というと大仰ですが、人生で何を求めたいのか。それに近いものをある程度持っていた方がいいです。
そして次にそれに合った働き方、収入がある仕事は何か?で絞っていく。
もちろんどんな仕事が世界にはあるのか、その知識は多いほど選択肢も広がります。
学生向けの職業案内の本やサイト、転職サイトなどを見ると年収や働き方はある程度分かります。進路相談の担当者に色々聞いてみるのもいいかもですね。
それでも生きていくうちに人生に求めるもの自体が変わっていくこともありますので後悔しない保証はないですが、少なくともその確率を減らせますし、そこで得た知識は今後絶対に役に立ちます。
もう一つは、どれだけ考え抜いても人生に変化はつきもの、という観点から『迷ったときは選択肢が多く残る方を選びなさい』ということです。
例えば自分が何をしたいのかまだはっきり分からなくて、でもそれなりに収入は必要そうで、調べたら高卒と大卒では大卒の方が平均収入が多い、そして経済的には進学できるというのであればとりあえず役に立つ可能性の高い大学に進学しましょう。
18歳のころに最大限調べて考えて決めたことだとしても、やっぱり気持ちが変わることはあります。そこはもう認めちゃって、最大限どう転んでも大丈夫な備えをしておくことが重要です。
なので今回のケースで言えば、この美女が本当に看護師という仕事が一生楽しんでできる保証はないです。
ですが少なくとも国家資格であり一度取ったら無くならないこと、比較的高給なこと、全国どこにでも求人があり退職・再就職も容易で希望に合った働き方を求めやすいことなどから、『迷ったら看護師』というのは悪くないと思います。
中国の『菅子』という古い書物の中に『衣食足りて礼節を知る』という言葉があります。
「人間はまずは衣食住が満たされて、初めて礼儀や優しさを持つ余裕が出てくる」という意味ですね。これはほんとその通りです。人に優しくしたいなら、自分に余裕がないといけません。
『レ・ミゼラブル』のジャンだって家族の明日のパンにも困って盗みを犯してしまい、19年も監獄に入れられることになったのです。
まずは衣食住を安定させることはとても大事なことです。
こういうと「そんな自分の都合だけで人の命に関わる仕事について欲しくない」とかいうクソリプが湧いてきそうですが、はっきり言って志望当初のモチベーションと実際の仕事のクオリティはあまり相関しません。
当初から意識高い看護師が後輩をいびりまくって大量に辞めさせるお局になったり、なんとなく看護師になった人が優しくてとてもいい看護師さんになってたりします。
医師もそうですけど、成績優秀だけど「自分が正しい!」と独りよがりな危ない診療したり心無い言葉を吐く医師がいる一方で、私大医学部にぎりぎり入って飲み会と麻雀に明け暮れ留年しまくった人が凄腕の外科医になってたり。
これは動機よりも適性の問題なので…分からないもんですよ。
なのでそんな騒音は気にしないでいいです。
よっぽど別に進みたい進路があるならばそれもよいと思いますし、はっきり分からないなら安定したり変更がきく進路を選んでおきましょう。
ちなみに現在先生の秘書を募集しています。ノリが良くてタイトな服を着てくれる美女がいればご連絡ください。
内容は先生のスケジュール管理とAmazonの発注と頻回のセクハラに耐えるくらいの簡単な業務です。あとはTバック必須なくらいで学会にも連れていきますしおススメですよ?どうですか??
症例8 有益な情報を餌に不当な対価を要求する医師
先生は先日からこれを読んでますので、究極の食事が知りたい向学心の強い女性は「当直室にこっそり遊びに来ちゃった」的なノリでDMください。特別に教えます。 あ、自分で買ったらダメです、Amazonでポチっとしたらダメです!!!!
こんなこと言っておきながら何ですが、なぜだか突然すっきりして「そういう下世話な話はどうでもいい…早く世界平和に貢献したい…」という気持ちに襲われたのでもう大丈夫です。
謎のシチュエーションDMとかいらないのでここでみなさんに教えますね。
賢者タイム?何ですかそれ?
今回引用させてもらうのは
『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(津川友介 東洋経済新報社)
です。著者はアメリカ在住のお医者さん、津川先生でUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)内科学助教授です。東北大学医学部→ハーバード大→聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大勤務など経て現職、というちょっとわけの分からないレベルのエリートドクターです。
UCLAの助教授とか聞いただけで先生の髪の毛は200本くらい抜け落ちました。
Twitterもされてますよ(@yusuke_tsugawa)。
これはあくまで引用です。簡潔な引用に留めないと著作権がもごもごなので…要旨だけまとめますけどもっと有用なことはたくさん書いてあります。もっと知りたい方は買ってみてくださいね。
要約すると
健康に良い食べ物は
①魚
②野菜・果物(ジュース・じゃがいもを除く)
③茶色い炭水化物(玄米、蕎麦、全粒粉など)
④オリーブオイル
⑤ナッツ
逆に良くない食べ物は
①赤身肉(牛・豚)
②白い炭水化物(白米・砂糖)
③飽和脂肪酸(バター)
だそうです。地中海料理がかなり近くて、和食は塩分濃度が高かったりで理想的な食事とまでは言い難いですね。
あくまでエンドポイントは脳卒中、心筋梗塞、がんなどのリスク低下なので、美容的な影響を直接見ている訳ではないことに注意ですが、恐らく美容にも好ましい影響があるとは思います。
というわけで…お盛んなみなさんはダイエットの方が気になることでしょう。あまり紙面の多くは割かれていませんが、言及されていた部分でこれもいくつか要点を。
・カロリー値は参考にならない、大事なのは何を食べたか
・脂肪制限では減量できない
・炭水化物制限は合理的だがその種類が大事で、白い炭水化物はNGだが茶色い炭水化物はOK、果物ジュースはNGだが果物はOK
などなど。
ここに載っている内容も、「現時点で判明している範囲では確からしい」に過ぎません。医学はいつまでも100%はありません。ですが「健康に良い食べ物&そうでない食べ物」の正解は実際あると思いますし、現時点で一番正解に近いものが上記でしょう。
ただ健康・美容・ダイエット業界は非常に利権が絡む業界なのと、効果が分かるまでのタイムラグや交絡因子があって因果関係を証明しにくいことから、世間には嘘まやかしがかなり…かなり横行してます。
「コ〇ーゲンを摂取すると肌に行き渡ってキレイになる」とか「〇〇成分が髪の内部に浸透して補修」とか。キレッキレのだと「肌に塗るだけで遺伝子を修復して若返らせる!(キリッ)」とかありますからね。もうどこからツッコんでいいのか分かりませんね。
更に嘘を教えてる当人も心から信じている場合もあったりして余計にタチが悪いですね。いや勃ちが悪いんじゃないです。めっちゃ勃ちますよ??
最近ではグルコサミン摂取は関節炎に無効という報告も話題になりました。
この本ではいわゆる医学的でのエビデンスとは?的な説明もしてくれているので、これが広まって少しでも美容・健康関連の明らかなデマに騙される人が減ってくれたらありがたいですね。
先生個人はダイエット・ボディメイクはマクロ栄養学派なので、ざっくりだけど適切な栄養管理と運動負荷が重要だと思ってます。きちんとした知識と計画力があれば地道に無理なくいい体になることはできると思いますよ。
そういえばナイトスポーツっていう楽しくダイエットできる運動があってですね…?
ちょっとここでは話せないので、詳しく知りたい人はできるだけ動きやすくて露出の多い恰好の自撮りと共にDMしてください。お、なんか意欲が戻ってきたぞ??
症例7 彼氏に突然振られた美女
ある日先生の外来に驚くほど白い、儚げな美女がやってきました。
数年付き合って結婚話も出てきていた彼氏に突然一方的にフラれ、ちゃんと話し合いもできないままブロックされきちんと話すこともできず、向こうには早速次の彼女がいるようで…それ以来眠れない食べれない、いつも泣いてばかりで…ということでした。
美『別れてみたら全然することなくて…私、あんまり友達いないんだなって…ずっと彼氏といたから…』
ちょっと匂いか嗅いでみていいですかハアハアと言いたい気持ちをぐっと抑えて、まずは関係が終わるにしても話し合いをできるように共通の友人から頼んでみるようにと、その場しのぎの睡眠薬と抗不安薬を出すことを説明し、それでもまだ足りない、この美女の今後のために何かアドバイスはないか、うーん…と考えた挙句、
twitterを勧めときました。
しゅん「あくまで健康的な形でできればの話ですが、人間関係の挫折は人間関係といった風に近いもので埋めるのが一番スムーズです。今まで彼氏に依存していた部分を埋める何かがないとどうしても長引きます。家族でも友人でも構わないんですが、現状代替がない状態ですね?」
美女『はい、家族もあんまり頼れないし誰もいないですね…』
し「学生の頃は何もしないでも同世代の人が同じ部屋に30~40人集められて、そこから自然と気の合う友人や恋人ができてましたよね?でも社会人になったら誰もそんなことしてくれません。仕事や趣味などで放っておいても出会いがある人はいいんですけど、そうでない人は意識して人工的にでも人との繋がりを作っていかないといけません。」
美『そうですね…確かに…』
し「美女さんは恐らく社交的な方ではないですよね?」
美『はい…笑』
し「社交的な人が仲良くなれる確率を1/3とすると、美女さんは1/10くらいですかね…。そうすると10人知り合いができたらそこから1人友人ができる計算になります。彼氏となるともっと少ないでしょうね。普段の生活圏の中だけで簡単に10人と知り合いになれますか?」
美『無理ですね…』
し「なのでtwitterですよ(ニヤリ)。やってますか?」
美『一応してますけど鍵かけてて…フォロワーも数人です…』
し「鍵は外して存在を知ってもらいましょう。まずはなかなか人に言えていないモヤモヤを吐き出しましょう。失恋話はみんなの関心事なので、自分と似た境遇の人は必ずいます。こんな苦しんでいるのは自分だけじゃないんだ、という発見は自分の支えになりますし、共感はそれだけで治療効果があります。まずそんな人を見つけて苦痛にならない範囲で交流してください。そしてたくさんの人と関わってください。普段の生活では不可能でも、SNS上では100人でも1000人でも交流することは可能です。出会いは究極的には確率論です。まずは浅く関わる中で、この人ともっと関わりたいと思ったら積極的にフォローしたりコメントしたりしていきます。その中で自分も発信していればあなたに興味を持ってくれる人が必ず出てきて、そこから双方向性の繋がりができてきます。失恋女子と慰め励ましあうもよし、新たな出会いで残念な元彼氏を忘れるもよし。合わない人や頭おかしい人も必ず出てきますが気にせずどんどんブロックしてください。そんなのに関わってる暇はありません。それとすぐおっぱいとかお尻とかつぶやく医者アカみたいなのもいますけど仕事頑張ってるのでせひ谷間くらいは見せてあげてください気が向いたらもっと過激なのをあげても喜びますしリツイートとかすると多分失禁するんじゃないかな知らんけど」
美『(突然めっちゃしゃべるやんこの医者)…』
し「というわけで昔は引きこもって人間関係の広がりを諦めるしかなかった人見知り系女子にとっては、SNSは人的資源を最大限に活用する、ひいては友人や恋人を見つけることも不可能ではない強力なツールです。これを使わない手はないです身体のラインを強調したセクシーな自撮りを上げるとフォロワーも増えるんですけどオフパコクソリプラーが殺到するのであげるかどうかはまず先生に見せて相談してください必ずですよ」
と締めて終わりました。
先生の教え通り順調にアカウントが成長して、古傷も癒えてアルファになって新しい友人や彼氏もできて楽しく過ごせるようになって、無事に先生のアカウントがバレた際にはめっちゃリツイートしてもらおう。あとおっぱい画像ももらおう。そう思った夏の日でした。ちんちん。あ間違ったちゃんちゃん。
症例6 Peing 質問者Cさん -会話の成立しない夫についてー その②
前回の続きです。
その①ではASD(自閉症スペクトラム)について解説しました。
これも前回もお伝えしましたが、基本的にメンタル系で困っていることはとりあえず病院に相談はアリです。その際に病気であるかどうかは関係なく、その判断も含めて病院に相談するのは解決の糸口になる可能性はあります。もちろん受診した上でどうしようもない…ということもありますが、少なくとも医学的に改善の余地があるかどうかは分かるでしょう。
その際はまずは受診前に電話で「~~といった相談をしたいのだけどそちらで対応してもらえますか?」と聞いてもらうとよりよいです。設備や専門性の問題でそこでは対応できないこともありますが、それなりに親切であればどういった医療機関が適切かなど教えてくれるかと思います。
ただ一つ心配ではあるのが、医師は疾患や薬のことは勉強しても、生活改善のための適切な支援の方法については医学部のカリキュラムでは学んでいないということです。
例えばアメリカでは精神科医になるに際して標準的な面接法などを学ぶ機会があるようなのですが、日本では特にそういったものを全員が学ぶ機会はありません。ほぼ個人の能力・独学に委ねられていると言っていい状態です。
それに認知療法や生活支援といったものはどうしても診察時間を食うので忙しい先生には敬遠されることもあります。なので医師がそもそも「適切な支援ができるか」という問題と、更にできたとして「それをしてくれるか」という問題があります。
先生も外来でこの辺の治療や話をすると平気で診察が1時間を超えてくるので…正直他へ仕事へのしわ寄せはかなり大きいです。
今は医療費削減の波で病院経営も楽ではなくなってきているので、どの病院も生き残りをかけてしのぎを削っています。例えばカウンセリングは診療報酬の設定がないので、自費にしているところ以外はタダでやってるようなものです。そんな状態ですので対価に合わないものにエネルギーを割く余裕はない病院・先生方の気持ちも分かります。
精神科は身体科と違って標準化が難しいのでガイドラインのようにこれが正解!みたいなのがないに等しくて、また医師ー患者間の相性・信頼関係も身体科より重要になります。
外科であれば人間的な相性は最悪でも手術が上手ければいい医師と言えるでしょうが、精神科で相性が最悪だったら信頼関係の構築はまあ無理ですよね…。
要するに精神科は能力的にも相性的にも医師の当たり外れが大きいのです。人当たりが良くて勉強熱心な先生は診察時間も長くなるし、かかりつけの患者も増えてますます予約も時間も取れなくなるし…とその辺の難しさがあります。
なので一回かかった病院が合わなかった可能性もあるので、別の病院に行くと解決の糸口が見えることもあります。
正直自分が患者でもこの先生には診てほしくないなあ…と思う精神科医もぼちぼちいます…。仕方ないけど標準化が難しい精神医学の分野はほんと無法地帯なので…レベルはピンキリです。
ただ厳しいことを言う先生が悪いとも限らなくてですね…ほんとここは難しいです。
なのでもし本当に迷ったときには一回病院に相談してみてください。そして自分でも勉強してみて、疑問があれば医師にぶつけてみてください。ちゃんとした先生なら(その時の忙しさにもよりますが)きちんと返してくれるはずです。そこで「患者が質問するんじゃない」みたいな態度の医師はヤブで良いと思いますし、それでも納得できないなら他の医師にも意見を聞いてみてください。
正直これは精神科医サイドとしては負担が増えるので苦しいところなんですが、やっぱり治療というか支援がハマった時は大きく改善するので、頑張りどころかなとも思うんですよね。
という今回もとてもまっとうな話でした。先生の外来は忙しいので説明はちゃんとしますがおっぱいくらいは触らせてもらいます。
症例6 Peing 質問者Cさん -会話の成立しない夫についてー その①
こんにちは、Dr.しゅんです。
次の質問です。
お困り系の質問は早めに返信していきましょう。
これは前回の質問者Bさんと同じなのか…同じ気がしますけど…どうでしょうか?
ツイートではまずは『自閉症スペクトラム』を調べて当てはまるか検討してみてください、と答えました。
自閉症スペクトラム(以下ASD)はDSM-5というアメリカの精神疾患・障害の分類マニュアルでは以下のA~Dを満たすものと定義されています。
A:社会的コミュニケーションおよび相互関係における持続的障害
1.社会的・情緒的な相互関係の障害
2.他者との交流に用いられる非言語的コミュニケーションの障害。
3.年齢相応の対人関係性の発達や維持の障害
B:限定された反復する様式の行動、興味、活動
1.常同的で反復的な運動動作や物体の使用、あるいは話し方
2.同一性へのこだわり、日常動作への融通の効かない執着、言語・非言語上の儀式的な行動パターン
3.集中度・焦点づけが異常に強くて限定的であり、固定された興味がある
4.感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心
C:症状は発達早期の段階で必ず出現するが、後になって明らかになるものもある。
D:症状は社会や職業その他の重要な機能に重大な障害を引き起こしている。
まあ簡単に言えば 空気が読めない人 ですね。アスペルガー障害とか高機能自閉症とか色々呼ばれていたものをまとめてASDと呼ぶことになりました。これは一つの概念で説明できるというか、すべきものだと思うのでいい変化だと思います。
空気を読むというのは実はなかなか高等な能力でして…子どもは大人より苦手ですよね、忖度的なのは。場の空気を読んで「ここは泣き止んだ方がよさそうだ…」とか思って泣き止むとかね。
これは知能と一緒で徐々に発達していく能力なんです。知能は『言語化できる情報処理の能力』、そして情緒は『言語化できない情報処理の能力』と捉えることができます。ここ大事!!そして一般的に情緒的な能力は女性の方が高いです。
これがどちらも同じくらいのスピードで平均近くまで発達していくのがいわゆる『定型発達』の人たちですが、情緒の発達が上手く進まない人をASDと呼んでいると理解してもらうといいと思います。
そしてDSM-5になってスペクトラムという単語が新たに入ってるんですが、これはその程度には幅があるよ、という意味でして、ASD特性は軽い人から重い人までいて0か100かではないよ、みんな多少なりともその要素は持ってるんだよ、ということです。
スペクトラムという扱いになることで病名(病気ではないんですが便宜上ね)への抵抗が少しでも和らぐ、という効果もあると思います。
自閉症という単語のイメージから受け入れたくない、特に自分の子どもはそんな病気なんかじゃない!という気持ちからASDを薄々感じながらも支援を受けない家族は多くいます。そこで「病気じゃないし、みんな持ってる特性なんだよ」と捉えることで少しでも心理的抵抗が和らぐといいなと思います。
否定して見ないふりをしても特性は実際にあるわけですし困っていることが解決することはないので、必要な支援はぜひ受けて、本人の生活上の苦痛を和らげて欲しいですね。
ASDの人は表情から気持ちを汲むとか、言葉の真意とか行間を読むことが苦手ですし、自身の感情表出も独特です。一般的に人は ”自分だったらどう感じるか” で善悪を判断するので、会話は最低限の情報伝達でよいと思っている人に「じっくり話を聞いてほしい気持ちくらい分かるでしょ?」と言っても(実感としては)分かりません。そういった人たちは会話がなくても本当に困らないし苦痛でもないんですから。
とある夫婦は奥さんが「子どもを見ててね」と言ったら旦那さんは子どもが転んでケガするのを言われた通りじっと眺めていて、旦那さんとしては『え、言われた通り見てたけど何がいけないの…?』と困惑していました。
旦那さんは知能は正常なので転ぶ予測ができていないわけではなくて、恐らく『転んでも死にはしないから手を出す必要はない』という判断をした上での静観だったと思われますが、奥さんからしてみたら何一つ任せられない!!ということになって夫婦間の仲は険悪になってしまいます。
これはもう熱意とか常識ではなくて能力の問題なので、奥さん側も「普通考えたら分かるだろ!」というのは旦那さんからしたら正直ムチャな要求でして…数学が苦手でどこが分かってないかも分からない女性にともかく自分で考えてみろという男性みたいなもので、もうその度に正解を教えて半ば暗記で数学を解けるようになるように育てるしかありません…。
言語化されれば理解することは可能なので、「話しかけられたらとりあえず『うん』と返事をする」など少しずつ共有するルールを作っていくことが必要です。
そんなところから?と思うかもですが、がっつりASDの人は「辛そうにしていたら労わった方がよい」とか言われてもどんな時が辛いの?、労わるってどうするの?(´_ゝ`)ってレベルですからね、言語化しない限り伝わらないので、少しでも曖昧なルールは結局適応できません。プログラミングだと思ってもらうといいかな…。
ASDに関してはAQテストという簡易検査があるんですが、現在は診療報酬に反映されるためか公開されておらず、病院を受診しないと受けることができません。
AQテストをせずとも参考になる本がたくさんありますので、一度本を読んでみるとその特徴や周囲の対応なども書いてあります。
『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』↓
ネット中毒、オタクになる原因はこれ? 「生きづらさ」の正体とは | ダ・ヴィンチニュース
著者の本田秀夫先生は発達障害に関して有名な精神科医ですし、これは内容も妥当だと思います。ネットもそうですが、書籍でも中にはこれは電波系かな?というものも含まれてますので、必ず自分で目を通して医学的妥当性を保てているものだけを勧めています…。
長くなりましたので後半に続きます。
症例5 Peing 質問者Bさん ー子育て奮闘ママのイライラについてー
どうも、Dr.しゅんです。世間は三連休ですが先生は人混みも汗だくも嫌でござるなので病院にカンヅメでブログかTwitterに勤しんでいるわけです。決して連休がうらやましくなんかないです。強がってないし涙目でもないです。夏休みはめでたく丸一日もらえるみたいなので悔しくないです。
…
さて少し前に受けた質問です。
これに対してまずは精神的不調の原因はざっくり
①脳の中のせい
②環境のせい
の二つがありますよーというところをツイートでは説明しました。
怒りっぽくなっているのがどちらの影響なのか次第で、①であればお薬が必要ですし、②であれば環境をどうにかするのが優先です。
①では例えば抗うつ薬や気分安定薬や抗不安薬といった薬が選択肢になるでしょうが、大事なのはこれはイライラや不安を全く感じなくなる薬ではない!ということです。
薬でできることはせいぜい『イベントやストレスに対して一般的な反応をする人』になるところまでです。例えばワンオペ育児・家事やモラハラ旦那さんなど、正常な人でもイライラするであろうことであれば、薬を飲んでもイライラします。
鎮静が強い薬をがっつり飲めばイライラも感じなくなるかもですが、恐らく全てのことに反応が鈍くなって本末転倒になります。
なのでストレスへの反応が過剰なせいで辛い人には薬が効く可能性があります。これにはうつ病、躁うつ病、パニック障害、不安神経症などが含まれます。周囲や普段の自分と比べてストレスへの反応が強すぎる、と感じられたら内服を検討してもいいかもですね。
なので質問者さんが内服が有効かと言われると…診察してみないと分からないところです。
あと好きな自分になれるかは、強すぎるイライラが治まった結果として好きになれる可能性はありますが、薬自体に自分を好きになる効果はありません。もしあったとしたらそれは躁転(躁状態になること)の可能性が高いですので治療しましょう…。そこは別問題と考えた方がいいでしょう。
そして②ですけど、恐らく質問者さんはこちらの方が大事ではないかと思います。
恐らく子供さんも小さくて、旦那さんも協力的ではない中で孤軍奮闘しているのではないでしょうか?①の有無にかかわらずきっと誰でも音を上げたくなるような過酷な環境にいるのではないかと想像します。
社会的要因は詳細に生活状況を聞かないと具体的なアドバイスは難しいですが、本人の改善点としては「全て100点でなければ…という思考の人には家事育児は60点でよしとしてどこをどう手を抜くかを一緒に考える」などすることはあります。
あとは行政が相談窓口含め色んな子育て支援をしており、自治体オリジナルの支援などもあるのでこのようなサイトも活用して、使えるものは全部使ってやるぞ!という気概で臨んでみてください。こういった支援は自分から探していかないと向こうからはなかなかアプローチが難しいので調べたもん勝ちです。
特別旦那さんや子どもさんが関わりが難しいと感じている場合は発達障害なども隠れているかもしれません。試しに一度病院に相談してみると問題点が整理できてあわよくば改善できる可能性もあるので悪くないと思います。
精神科・心療内科はですね、別に病気じゃなくてもかかっていいんですよ。先生は精神科・心療内科は『生活上困ったことを解決する手伝いの仕事』だと思ってます。
例えば発達障害は病気じゃなくて特性です。なので治療するとかいうものではなくて、~病じゃなくて~障害って名前になってるんです。でも困ることも多々あるから取り扱っているだけで、病気かどうかは受診の必要性の有無には関係ないです。
具体的な情報があればまたアドバイスのしようもあるかもですので聞いてください。
質問者さんが今後少しでも過ごしやすくなることを祈ってます。
症例4 Peing 質問者Aさん ー不調になった恋人未満の人への関わりについてー
今回はPeing 質問者Aさんからの質問に答えてみたいと思います。
えーと、そもそも適応障害とはどんなものなのでしょうか?
実は精神科疾患ではICDとDSMという国際的な診断基準が大きく二つありまして、一応診断といえばどちらかを使っています。今回はICDの方の適応障害を見てみましょう。
ざっくり言うと
『抑うつ、不安、心配、現状への対処・計画・日課遂行の障害などの多彩な症状がストレスの多い出来事、あるいは生活の変化から1か月以内に発症し、症状の持続は6か月を超えない。実際の出来事・状況・あるいは生活上の危機なしには障害は起こらなかったという証拠が必要』
といったところですね。
ちょっと分かりにくいのでしゅん先生の定義でいきます。
適応障害は『うつっぽいけど抗うつ薬は飲まなくてもOK!環境を改善すれば元気になるよ!』状態です。
抗うつ薬は脳の中をいい感じに調整してくれるものなので、それが効くということは脳の中にも異常が出てきているということです。それがいらないので、あくまで置かれている環境が良くないんですよ、ということ。
なので一番の治療は基本的には環境を改善することです。仕事が忙しすぎたら業務量を減らしてもらったり休んでもらったり、人間関係だったら先生は少し介入することもありますし、睡眠薬などを追加することもあります。
ただし症状としては抑うつ気分、不眠、不安など基本的にはうつと一緒なので、抗うつ薬を使うかの違い以外は、基本的に周囲はうつの人に準じた対応でよいです。
うつでは意欲が落ちて仕事など『しなければならないけどしんどいこと』ができなくなりますが、その先には『今まで楽しめていたこと』も楽しめなくなるアンヘドニアという症状も出てきます。
アンヘドニア改善→意欲改善となるのが一般的なので、まずは『今まで楽しめていたことを楽しいと思えること』が最初の目標ですね。
ただこの楽しいと思えることはあくまで本人目線でですので、いくら周囲が楽しませよう!と思って強引に飲み会に誘ってわいわいしても、本人がしたいことでなければ疲れるだけでマイナスです。なのでこの匙加減はけっこう難しい。
ある偉い先生が『精神科医は”杖”である』と言っています。勝手に病院まで運んで治療してくれる”救急隊”ではないんですね。これは精神科医療スタッフに限らず家族や支援者全般にも言えますが、あくまで歩いていくのは患者さん本人なんです。
患者さんには登らないといけない山があって、我々支援者は歩くのを支えたり励ましたり正しい道を示すことはできるけど、歩くこと自体は代わってあげることはできない。
本人を置き去りにして周囲だけで治療を終わらせることはできないんです。
ここでAさんの対応は過度に干渉しすぎず、暖かく見守るような対応でとても良いのではないかと思います。
ただしなかなか改善しない本人をただ待つしかないのは支援者としても辛いものがあります。ましてや恋人未満の宙ぶらりんの状態でどこまで待てるか…
男性は一般的ににプライドが高く弱みを見せることが苦手な傾向があり、女性のように愚痴を吐いて共感してもらってスッキリする、というのがとても苦手です。
うつ自体は女性に多いですが自殺率は圧倒的に男性が多いです。
なのでこの本人さんもAさんにうまく弱いところを見せたくないから敢えて距離を取っている、自己防衛のような印象はあります。ただそれを指摘して、さあ弱みをさらしていいんだよ?と言われてすぐできるかというと…それも難しそうです。
するとすればオープンクエスチョン(『何かきついことがあったの?』など自由に返答できる質問)で聞くのではなくて、ある程度当たりをつけてクローズドクエスチョン(『上司の〇〇さんとうまくいってないんじゃない?』などYES・NOで答えられる質問)で話を切り出させ、話すことで何らかの本人の状態の改善を自覚させられれば、『Aさんに弱みをさらす→よくなる』と思ってもらえるかもしれませんが…男性のプライドを穏便に崩すのはなかなか簡単ではありません…。
とりあえず今までのAさんの対応はそれで十分支持的だと思います。あとは今後どうやっていくか。
どの道を選ばないといけないという正解はありません。大事なのは自分に必要な選択を、自分で考えて選び取るということです。
いたずらに時間が過ぎるリスクを負ってでも改善を願って待つもよし、できるところまで頑張ったら次の恋愛に進むもよし。
ここで気を付けるべきは、「たとえ支援から離れても自分を責める必要はない」ということです。
ここで離れてしまうのは弱った人を見捨てるみたいで良心が咎めるかもしれませんが、あくまで我々は杖です。この比喩が示すもう一つ重要なことは、「我々はできる範囲の支援しかできないし、しない」べきであるということです。誰であろうと、進まない本人を背負って代わりに歩いていくことはできません。我々精神科医もどこまで支援できるかという限界設定をしています。
恋人でもないのに自分の人生を犠牲にしてまで待ってくれているAさんがいないと維持できないならばそれは改善したとは言えませんし、ゴールではありません。
なのであくまでAさんは自分の人生を維持できる範囲で支えることが重要で、自分の心身の健康を維持できないレベルで支えるのは双方にとってよくないことです。
自分にとって最善の選択をしっかり考え、できる限界を決めた上で、無理のない支援をしていってもらえたら、と思います。